ベトナムにおけるM&Aの法的視点【Vol.21-2026.3掲載】
長島・大野・常松法律事務所
ホーチミンオフィス代表
日本国弁護士 ベトナ ム外国弁護士
中川 幹久
1. ベトナムにおけるM&Aの基本的な形態
ベトナムにおいても、法制度として株式/持分譲渡、増資引受、資産譲渡、合併、分割の各形態は存在しますので、法制度としては、日本における M&A の基本的な形態と根本的な違いはありません。しかしながら、実務的にみますと、外国企業が関わる M&A において用いられる形態は、専ら株式/持分譲渡、増資引受、資産譲渡に集中しており、合併、分割が用いられているケースはかなり限定的と認識しています。その背景には、例えば、外国企業が関わる合併や分割については、手続規定が十分に整備されておらず手続的な不安定さに対する懸念があること等があるものと考えられます。ここでは、M&A の形態として実務的に多く見られる株式/持分譲渡、増資引受、資産譲渡についてご説明します。
1.1 株式/持分譲渡
株式譲渡は、対象会社が株式会社の場合に、既存の株主から、その所有する株式を譲り受けることで対象会社の株主となる形態を指します。また持分譲渡は、対象会社が有限責任会社の場合に、既存の出資持分権者から、その所有する出資持分を譲り受けることで対象会社の出資持分権者となる形態を指します。これらは、最もシンプルに対象会社の株主・出資持分権者になる形態の一つとして、ベトナムの M&A 実務においても最も一般的に見られる形態です。
1.2. 増資引受
増資引受は、対象会社の増資を引き受け、出資義務を履行することで、株主・出資持分権者になる形態です。資本政策等の観点も踏まえ、上述の株式/持分譲渡を選択するのか、増資引受を選択するのか、あるいは、両者を組み合わせるのか判断されることが多く、実務的には、株式/持分譲渡と増資引受を組み合わせて資本参加するケースも珍しくありません。
1.3. 資産譲渡
株式/持分譲渡・増資引受がいずれも対象会社の株式・出資持分を取得することで対象会社自体の所有者となる形態であるのに対し、資産譲渡は、ある会社の特定の資産(例えば、建物や製造設備など)のみを譲り受ける形態です。会社全体の買収ではなく、その会社のうちの特定の資産のみ譲り受けたいという場合に選択されます。もっとも、ベトナムの実務では、実質的にはある会社全体の買収に興味があるものの、重大な潜在債務の存在の可能性が発見された場合に、必要な資産のみを取得する手法として検討されることもあります。他方で、取得したい資産の中に、例えば土地使用権など、権利者を移転・変更することについて当局の承認が必要となるものが含まれている場合には、かかる当局の承認が得られるのかが問題となるため、こうした資産が含まれていないか、また含まれている場合には当局の承認が問題なく得られるのか等について事前に十分に調査をすることが重要となります。
2. 外資規制と審査
2.1. 外資規制
ベトナム投資法上、外国投資家が投資することについて規制されている事業分野があり、かかる事業分野を一般的に条件付投資分野と呼んでいます。一定の化学物質に関する事業や債権回収業などに外国投資家が投資することは禁止されています。また投資は禁止されていないものの、一定の条件が付されている分野があります。例えば、ロジステックサービス分野のうちの一定の事業については、外国投資家の出資比率に上限が設けられています。こうした外資規制については、ベトナムが加盟している国際条約や協定などでも取り決めがなされています。例えば、ベトナムの WTO コミットメントや CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)では、ベトナムが外資規制を段階的に開放することなどが約束されています。M&A を行うに当たっては、対象会社が行っている事業が外資規制の対象となっていないかを確認する必要がありますが、その際には、ベトナム国内法とともに、こうした国際的な協定などについても内容を調査する必要があります。
2.2. 審査-いわゆる M&A 承認
外国投資家がベトナム企業を買収するにあたり、上述の外資規制が遵守されているか等について当局が投資の前に審査する手続きが投資法において規定されており、実務上、かかる手続きを M&A 登録あるいは M&A 承認と呼んでいます。条件付投資分野において外国投資家の投資比率が増加することとなる場合など、一定の要件に該当する場合には、必ずこの手続きを経る必要があります。ただ、かかる一定の要件の解釈について、管轄当局によって解釈が異なったり、また同じ管轄当局であっても時代時代によって解釈が変更されたりしますので、M&Aを行う場合には、M&A 承認の要否について、当該時点での管轄当局の解釈を事前に確認することが推奨されます。
3. デューディリジェンス
日本において M&A を行う場合と同様、ベトナムにおける M&A においても、法務・税務会計・ビジネス等の各観点から対象会社に対する監査(いわゆるデューディリジェンス)を行うことは一般的です。ただ、ベトナムの対象会社に対して行う監査においては、例えば、スポットライトを当てるべきポイント、監査の結果発見された事項に対する評価や適切な対応策などを検討する上では、ベトナム固有の知識や実務的な経験値があることが不可避といえます。ひとくちに法令違反と言っても、実務的なリスクは相応に低く一定の対応を講じれば進めて差し支えないと判断できるような問題もあれば、将来的に親会社の取締役の責任問題にまで発展する可能性も秘めた問題まで様々であり、その幅は、日本における場合よりも遥かに広いといえます。ベトナムにおける M&A を成功させるためには、こうした点について正確に見分け、判断をしていくことが特に重要になるものと思います。
4 契約実務
株式/持分譲渡契約、資産譲渡契約については、大枠では日本や欧米等におけるM&Aで使用されているものと基本的に大きく異なるものではありません。もっとも、ベトナムにおけるM&A固有の配慮が必要な箇所も存在します。例えば、譲渡資金の決済に関し、一定の場合には対象会社の資本金口座を介した資金決済をすることが法令上求められていることへの対応、対象会社の株式/出資持分の所有者が変更されることに伴って一定のライセンス手続(事業環境委員会や投資登録証等)が必要となることへの対応、税務申告・支払手続との関係での対応などがその例です。この他、デューディリジェンスで発見された問題点に対してどのような契約書上の手当てをするのかについては、上述のベトナム固有の知識や実務的な経験値を踏まえた判断が求められる点になろうと思います。
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