在ベトナム日系企業が変革を迫られる六つの局面 組織変革の「なぜ」を見定める
なぜ今「組織」なのか
ベトナムに進出している日系企業の人事や組織の課題は以前からあります。ただここへ来て、実際に本腰を入れて向き合う企業が増えてきたように思います。進出の早い企業だと設立から二十年近く。事業は大きく育ったのに、組織の仕組みは立ち上げ期のままという会社が少なくありません。そう考えると、いま人事・組織に正面から取り組む企業が増えているのはむしろ自然な流れです。ただ組織を変えること自体が目的になってはいけません。大事なのは、自分の会社にとって「なぜいま変える必要があるのか」を見定めることだと思います。
まず 「なぜ変えるのか」 から
ひとくちに組織変革と言っても中身はさまざまです。私が大事にしているのは、施策の細かいところに入っていく前に、「どんな会社にしたいのか」「どんな戦略を実行できる組織にしたいのか」「そもそも何が問題なのか」といういちばん根っこの部分を見失わないことです。整理のうえでは二つの問いに分けて考えると見通しが良くなります。ひとつは「なぜ変えるのか」というきっかけ、もうひとつは「何を変えるのか」という対象です。気をつけたいのは、この二つが曖昧なまま施策から入ってしまうこと。制度づくりに追われるうちに、本来なぜ変えたかったのかを見失ってしまうことは少なくありません。だからまずは「なぜ」から。変革が動き出す“きっかけ”を外から・内から・自らという三つの方向、六つの局面で整理してみました。
OUTSIDE 外から迫られるとき
1 外部環境が変化したとき
市場やお客さまの変化、技術の進展、法改正、競合の動き。こうした外の変化で、それまで効いていた強みが急に通じなくなったり、逆に新しいチャンスが生まれたりします。そうなると組織もその変化に合わせて形や中身を作り替えざるを得ません。ベトナムでいえば、消費市場の成熟や顧客ニーズの変化、デジタル化の進展、北部への投資集中による競争環境の激化などがこれにあたります。法制度の改正も頻繁でその対応も欠かせません。
変革の必要は、組織が成長していく過程でも内側から出てきます。
INSIDE うちから迫られるとき
2 成長・規模拡大に組織が追いつかないとき
人が増えて事業が広がってくると、創業期のような属人的なやり方では回らなくなってきます。意思決定が遅い、責任の所在がはっきりしない、部門間の連携が悪い――こういう「成長痛」は権限を委譲したり、階層や制度を作り直したりするサインです。駐在員に判断が集中している状態から、現地の中核人材が自分で事業を動かせる体制へ。ここを越えられるかどうかは成長期の日系企業に共通する悩みだと思います。
3 内部に機能不全の兆候が出たとき
離職が増える、とくに優秀な人ほど先に辞めていく。士気が下がって、指示待ちが増え、改善の提案も出てこない。評価や昇給の理由がはっきりせず、「頑張っても報われない」という空気が広がる。現地の社員の本音が経営に上がってこず、都合の悪い話ほど途中で止まってしまう――
こうした状態が慢性化してくると、業績が悪化する前に、評価や処遇の仕組みと、その運用やマネジメントのあり方の両方に向き合う必要が出てきます。
SELF 自ら仕掛けるとき
自分から戦略を切り替えるときにも組織の作り替えはついて回ります。
4 戦略・事業モデルを転換するとき
戦略が変われば、それを実行できる組織の形も、人材も、評価の仕組みもあわせて変えていく必要があります。日本で通用してきたビジネスモデルや商品をそのまま持ち込んだものの、だんだん通じにくくなってくる。あるいは生産・開発が中心だった拠点で、国内での販売や売上を伸ばしていきたい。取引先を日系だけでなく非日系にも広げたい。商品を多角化して事業を大きくしたい。人件費の安さを前提にしてきたけれど、自動化に舵を切りたい。こうした転換には、現地の市場や顧客を理解し、実行を担える人材が欠かせません。日本主導・現地は実行役という従来の役割分担を見直す局面であることも多いです。
5 M&A後の統合に臨むとき※1
日系企業が現地のローカル企業を買収するようなケースでは、買った側と買われた側とで評価や処遇の考え方も、労務や会計の管理レベルも、その背景にある企業文化も隔たりがあります。買収先の強みである人や現場を活かしながら、日系としての基準へどう近づけていくかという距離の詰め方が買収の成否を左右します。
※1 M&A後の統合:PMI(Post-Merger Integration) 合併 / 買収成立後に行われるプロセスのこと
6 現地拠点のトップが交代したとき
現地法人の代表が代わるタイミングも大きな節目です。方針の見直しと組織再編を一緒に進めやすい、またとない機会になります。実際によくあるのが、前任の方が人事面まで手が回っていなかったケース。交代を機に積み残しが一気に表に出てきて、そこから手つかずだった人事・組織の課題に着手する、という流れです。
危機になる前に、見定めて動く
気をつけたいのは、この六つの局面を放っておくと、やがて赤字が続いたり、シェアが落ちたり、生産性が伸び悩むといった業績の問題として表に出てきてしまうことです。追い込まれてから動き出す「危機型」の変革は痛みが大きいうえに、打てる手も限られます。だからこそ、自分の会社が今どこにいるのかを早めに見定めておきたいところです。そして「なぜ変えるのか」が見えてきたら、次は「何を変えるのか」です。対象は戦略、組織のかたち、人事制度、人材、そして風土と幅広いです。採用・評価・報酬・育成といった施策の一貫性を保ちながら、数年がかりで取り組んでいくことになります。人事や組織の課題は事業の内側にある分、自分たちだけだと案外見えにくいものです。ポジショントークになってしまいますが、外部の目を一度入れてみるのもひとつの有効なやり方だと思います。
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