変革するベトナム市場と成長を拓く協業の力【Vol.19-2025.3掲載】
ベトナム赴任当初の印象
ベトナムに初めて訪れた際、特に印象的だったのは、ハノイの街路樹の美しさでした。ハノイの街は、他のアジアの都市にはない豊かな緑に恵まれています。特にホアンキエム湖周辺を中心に、日本の神宮外苑や都内の街路樹にも劣らない風景が広がっており、自然豊かで落ち着いた街の景観は、ビジネス拠点としての魅力のひとつに感じられました。このような環境に事務所を構えられることは大きな喜びであり、国が成長してもこの環境が維持されていくことを願っています。
ビジネスにおいては、ベトナムが更なる成長期に向けた「変革期」であるという印象をもっています。そして日本企業にとっても、新たなビジネスチャンスが存在すると考えています。
ベトナム消費市場の伸びしろ
ベトナムは、今後も大きな経済成長が見込まれる市場です。現在、1人当たりGDPは4,500USDに迫っており、国内の消費市場がますます拡大する見通しです。特に、ハノイやホーチミン市内において、都市鉄道の整備が進み、沿線開発が活発化していくことで、今後、商業施設の増加や、それに伴う新しいビジネスチャンスが生み出されると考えています。商業施設を運営するディベロッパーは、商業施設内に、魅力的な商品・サービスをテナントとして誘致することでしょう。その時に、日本の外食産業に代表されるサービスや、農林水産食品を中心とした日本の製品には、大きなビジネスチャンスが来ると思います。
1人当たりGDPが4,500USDに迫る時期というのは、私がかつて赴任していたタイで言うと、15年前の状況です。当時もタイではまさに都市鉄道が整備され、沿線開発が進んでいた時期でした。その事例を振り返ると、同様の発展をベトナムでも期待することができ、日本企業にとって大きな追い風と期待ができます。
さらに、ベトナムでは都市部だけでなく、地方の消費市場も徐々に発展しており、地方も今後日本のビジネス対象となって行くと思います。イオンモールの地方進出が象徴するように、地方でも日本の製品やサービスに対する需要が高まっており、ベトナム全土での市場拡大が期待されています。
製造業を取り巻く課題とチャンス
ベトナム人は理数系に強く、規律正しい国民性を持つため、今後も日本にとって製造業に適したパートナーであり続けると思います。近年の消費市場の拡大は国民の所得向上を意味し、人件費の上昇が生産コストに影響を及ぼす可能性があります。それは課題ではありますが、内需拡大は日系製造業に対してのチャンスともなり得ます。これまで輸出に依存していた企業も、内需比率を高めることで成長する国内市場を取り込み、ビジネス成長の機会へと転換しようとしています。このように、製造業における課題と機会が交錯する中、ベトナム市場への柔軟な対応が求められています。
ベトナムの製造業において、個人的に注目しているのは、日本企業が長年ベトナムで培ってきた現場技術と、ベトナムが得意とするソフトウェア開発などITとの融合です。ベトナムはタイやインドネシアのような裾野産業の厚みでは劣るかもしれません。人材の層で言えば、インドは圧倒的です。しかし、現場技術とITスキルの両方を一定の水準で持ち合わせている国は珍しく、ベトナム独自の強みです。この2つを掛け合わせることの向上や新たな価値創出ができると思います。私はそれが、タイやインドとは違う、この国の強みになって行くと期待しています。
今後のアメリカの通商政策に注意は必要ですが、米中対立にともなうサプライチェーンの再編もビジネスチャンスにつながります。アメリカを中心に世界の市場に輸出する製造拠点が中国からアセアン、特にベトナムに移管する動きが固着(※定着)です。これらの製造拠点は部材の現地調達をこれから推し進めるでしょうから、改めてベトナムの裾野産業への期待が高まるように思います。特に、アメリカから「みなし中国製品」とにらまれないため、部材を中国から輸入するのではなく、ベトナムでの現地調達を高めることになるでしょう。
信頼できる現地パートナーの重要性
海外ビジネスにおいて最も重要な要素の一つは「信頼できる現地パートナーの存在」です。特に、ベトナムのような急成長する新興国市場では現地の協力者が不可欠です。ベトナムは1億人を超える人口を持ち、ASEAN内でも大きな市場であることから、多くの企業にとって魅力的な投資先です。しかし、依然として、言語の壁、商習慣の違い、法律や規制の複雑さなどの課題が存在します。これらの課題を解決するためには、信頼できる現地パートナーと協力することが非常に効果的です。
ジェトロの事業では、ベトナムのスタートアップをパートナーとする協業連携が注目されています。スタートアップは、リアルな販路やデジタルのネットワークを持ち、それを活用することで、日本企業は現地でのビジネス展開をスムーズに行うことができます。スタートアップのネットワークを使い、日本の商品やサービスを幅広い層に届けることが可能です。こうした日本企業とベトナムスタートアップの協業連携は、今後のビジネス成功の鍵となるでしょう。
双方の強みを生かした協業連携事例
日本とベトナムの企業が協業する具体例として、学研とベトナムのスタートアップ・キディハブの連携があります。学研は幼児教育コンテンツを多く保有し、キディハブは幼児教育関連のポータルサイトを運営しています。協業により、学研は自社で販路を築くことなく、キディハブの顧客ネットワークを活用してベトナム市場にコンテンツを広げています。さらに、業務協定から始まったこの協力関係は、資本提携へと進化し、さらに強固なパートナーシップに発展しました。
日本企業の強みと今後の展望
日本企業はベトナムなどの新興国市場において、特にヘルスケア分野で優位性を持っています。日本はアジアで最も早く高齢化に直面し、その中で培われた技術や社会インフラが他国に比べて進んでいます。例えば、都市開発や高齢者向け住環境のノウハウは、日本ならではの強みです。ベトナムでも都市開発が進む中で、将来を見越した高齢者向けの町づくりは、今後のビジネス機会として大いに期待されています。
このように日本は、ベトナムよりも先に様々な社会課題に直面し、解決に導いて来た歴史があります。片やベトナムはこれからその社会課題に直面していくことになります。日本は先に社会課題に直面したからこそ、その乗り越えた経験や仕組みがベトナムでも生かされることになると思います。そしてそこに日本にとっての新たなビジネスチャンスも生まれるのではないでしょうか。
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