ベトナムに向き合って15年 変貌する市場とM&Aのリアル【Vol.21-2026.3掲載】

株式会社レコフ
シニア・マネージング・ディレクター
兼 RECOF VIETNAM Co., Ltd. CEO
吉田 正高

 私たちは2011年にベトナムでの展開を開始したのですが、その時が私個人にとっても初めてのベトナムでした。いま個人として、どう感じているかは別としてその時「なんて親しみやすい国なのだろう」と思いました。我々よりも、もっと早くにベトナム進出した先輩企業も多くいらっしゃると思いますが、2026年時点のベトナムの変容ぶりを肌感覚で感じておられると思います。街角風景の変化は、高層マンション群の急増、日系含めた外資系ブランドの大型小売店、ラーメン店、寿司店を始めとした日本食レストランの増加など、あげればきりがないですが、個人的には人々の服装が最も変わったと思います。また、街角以外の最大の変化は、ベトナム人の日本、および日本人に対する意識の変化だと思います。かつては日本を訪れたベトナム人は相対的に少なく、アジアNo.1の遠い憧れの国であったものが、いまはいつでも行ける近しい国、非現実なことはせず、信頼は出来るが、なにか決めるのにとてつもない時間をかける人々と思っているのではないでしょうか。

それでは、上述の変化がM&Aビジネスにどのような影響を与えたか、もしくは現状はどういういうことをM&Aディールの前工程のみの限られた点に絞り、日本企業へのメッセージという形で掲げさせて頂きます。M&Aディールの後工程の方は常々各法律事務所、各監査法人の先生方のご指導のもと、FAとして協働で業務遂行している部分でもありますし、何より、ここでは字数の関係で全く書き切れないからです。

1. 前工程 —— ディールのオリジネーション(ベトナム企業側)

私たちの一つの特徴ですが、基本は直接ベトナムの売り手企業の発掘から入ることが多いです。その際、ベトナム側企業の戦略やニーズを入念に聴くのですが、かつては「日本企業であればどこでも大歓迎」であったのが、いまは買い手候補である日本企業のベトナム、あるいはアジアやグローバル戦略を我が事の様にチェックしたり、もしくは既に他のアジア企業と交渉中であったりもします。また、一方では、M&Aではないですが、ベトナムのIPO市場の発達が近時見られます。売り手にとりましては、IPOは自分の持ち分を売ることに他わりなく、売る相手がマーケットであるか、他の企業であるかの分かれ目になるので、買い手企業である日本企業にとっては「競合要因」になって来ています。要はベトナム企業側の「選択肢」は大きく拡大、もしくは「審査の眼」はかなり精緻化している時期に入って来ていると思います。もし、安易に「日本企業ならどこでも歓迎」という会社があるとすれば、M&Aを希望する背景や会社の状況について、追加の確認を要する場合もあるでしょう。

2. 前工程 —— ディールのオリジネーション(日本企業側)

日本企業側も「ベトナム素人」な会社は徐々に減って来ています。即ち、目的が「単純ベトナム進出」ではなく、自社業務との「化学反応」を見極め、M&A後の成長の絵をどう描くかを入念に精査したり、分かって来ているだけに余計慎重を期している、もしくは競口が狭まっている面があるかも知れません。もう一方では、製造業では「チャイナプラスワン」と言われて久しい(既に第七波か第八波か)ですが、その流れで「M&A後」のベトナム工場をアジアのハブ工場にするという戦略も散見されます。また、大きな流れとして、言うまでもないですが、日本企業にとってのM&Aターゲットは、かつての低コスト重視型のものから、力強い購買力を背景にした「地産地消型」の販売市場を展望したものに変貌していると思います。注意しなければいけないのは、日本と違ってまだ各企業の歴史がさほど長くないベトナムでは「二軍企業」がさほど育っていないということです。即ち、日本企業側が選り好みをし過ぎていて、ベトナムで「一軍のローカル企業」をM&Aで他国の企業に持って行かれると、ベトナムでの業界トップポジションを取る為の代替的なターゲットは非常に見つけにくくなるという事態もあり得ます。それで魅力あるベトナム市場自体を諦めてしまうのは勿体ないことです。

3 意向表明書(LOI)

前工程と後工程の折り返し点となるLOIはデューデリジェンスに移行する「パスキー」ですので、売り手、買い手共に初期段階で最も重視するものです。LOIは通常法的拘束力を伴うものではないものの、(日本を含めどこの国でもそうですが、)ベトナム側が最も注視するのは価格、特にレンジで示す場合は「価格レンジの極小化」です。
余談になりますが、この段階でベトナム企業によっては、LOIに法的拘束力を持たせたいとか、DDに入る前にデポジットを置いて欲しいとか、という話が出る場合もあります。斯かる要望が強い場合は私たちはその時点でディール打ち切りにしています。

4 日本企業へのメッセージ

前段でご説明しました様に、私たちの姉妹会社であるレコフデータの統計によりますと、日本企業が行ったM&Aの件数で見ると、ベトナムは過去10年間(上の表は6年分)常にシンガポールに次ぐ「不動の2位」の座にあり、それだけM&Aの行先として定着しています。一方、日本企業がベトナムでM&Aを検討するに当たり、実体験としても以下事由により、千載一遇の機会を逃して来ていることを念頭に置いておくと良いと思います。

 選り好みは最低限にすること⇒ 優良企業の選択肢はさほどなく、ベトナムのお国柄「結果オーライ」のケースが多々あり、近時同じベトナム企業のM&Aに対する日本企業同士の取り合いも発生しており、「売り手市場」になっていることを意識するべき。
 自然人材へのこだわりは最低限にすること⇒ M&Aの断り事由として、「派遣する人的資源がないから」とよくお聞きしますが、外部採用がいくらでも効く社会において多くの日系企業やベトナム企業がそうしている様に、外部人材を探す試みもせずに折角の機会を逃してしまうのは日本人として非常に悔しい。
 M&Aの最大のメリットである「時間を買う」という効能はベトナムの様な新興国で最も有効であること⇒ ベトナムは、日々の経済活動が急速で進化している国です。M&Aではなく、グリーンフィールドからの立ち上げの場合は、工場探しやヒトの採用を始め、許可申請過程などを克服し、日本企業がようやく事業開始出来る状態になった時は、持っている情報は既に陳腐化してしまっているリスクが非常に高い。
話に尽きないですが、この辺で終了します。

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