2026年ベトナム経済と企業戦略【Vol.21-2026.3掲載】
MUFG Bank, Ltd.
Regional Head of Vietnam, Head of Hanoi Branch
ベトナム総支配人 兼ハノイ支店長
埜﨑 孝雄 Takao Nozaki
1. マクロ経済の展望とリスク認識
2026年のベトナム経済は、引き続き東南アジアの成長エンジンとして注目されています。政府は GDP 成長率 10% を目標に掲げ、輸出主導型の産業構造を維持しながら、内需拡大とデジタル経済の推進を加速させています。特に電子機器や機械部品、衣料・履物の輸出は堅調で、外資誘致政策も継続される見込みです。
一方で、企業が認識すべきリスクも顕在化しています。最も大きな懸念は、世界経済の減速や地政学的リスクによる輸出需要の変動です。米中関係の緊張やサプライチェーン再編は、ベトナムにとって機会であると同時に、依存度の高い輸出産業に不確実性をもたらします。また、国内インフラの整備遅延や電力供給の逼迫も課題の一つです。特に電力需要は年率約 8~ 9% 増加しているのに対し、供給網の整備が追いついていない状況です。さらに、賃金上昇に伴う人材獲得競争の激化により、製造業におけるコスト構造を大きく変化させている点も見逃せません。
企業に求められるのは、こうしたリスクを踏まえた柔軟な事業戦略です。複数拠点による生産分散や現地サプライヤーとの協業強化、デジタル化による効率改善といった戦略が鍵となると考えています。
2. 有望投資検討先としてのベ トナ ム市場 ( 変化と魅力 )
ベトナム市場の魅力は、単なる「低コスト製造拠点」から「成長する消費市場」へと進化している点にあります。人口約1億人、平均年齢33歳という若年層中心の人口構成は、今後 10 年にわたり購買力の拡大を支えます。特に都市部では中間層の増加に伴い、消費財、金融サービス、ヘルスケア、教育分野での需要が急拡大しています。
加えて、政府のデジタル化政策により、EC、フィンテック、クラウドサービスなどの新興分野が急成長中です。 2030年までにデジタル経済比率をGDPの30%に引き上げる目標が掲げられており、外資企業にとっては IT人材の確保や現地パートナーとの協業が競争力の源泉となります。
さらに、グリーン投資の潮流も加速しています。COP28以降、ベトナム政府は再生可能エネルギー導入を加速し、 2030年までに電力構成の30%を再エネで賄う方針を示しています。太陽光・風力発電、EV 関連インフラ、サステナブル農業など、ESGを軸とした投資機会は今後一層拡大するでしょう。
3. MUFGの半導体振興支援の目的と展望
こうした変化の中で、半導体産業はベトナムの産業高度化を牽引する中核分野として位置づけられています。
MUFGベトナム拠点は 2025 年11 月、ベトナム財務省傘下の国家イノベーションセンター (NIC) と半導体関連産業の振興を目的とした覚書を締結しました。これは、産官学の連携による横断的な仕組みづくりを目指すものであり、情報交換やビジネスマッチングの推進を通じて、ベトナム半導体産業の基盤強化を支援するものです。NICとの協力を通じて、政府の補助金制度や許認可条件の把握、企業誘致の円滑化、そして人材育成の強化を図っていきたいと考えています。特に、半導体産業の発展には補助金制度の拡充や企業誘致、人材育成が同時並行で進むことが不可欠であり、産官学の三位一体による体制構築が鍵となります。
インフラ面では、ベトナムは水資源が豊富であり、超純水化設備を通じて製造工程に必要な水を確保できる一方、電力供給の安定化が課題です。政府は原発建設の再検討も進めており、今後の政策動向が注目されます。また、他国と比較した場合の補助金規模も産業集積の成否を左右する要素であり、現状では前工程に最大 10 兆ドン (約 590億円) の支援が掲げられていますが、インドや日本などの数兆円規模の支援と比べると小さいのが現状です。
MUFGは 2024 年に東京本部に 「半導体バリューチェーン推進室」を設立し、台湾・台北を中核にアジア太平洋地域を横断するネットワークを構築しています。各国・地域の担当者が定期的に情報交換を行い、インド拠点でも日系企業の進出支援を強化するなど、アジア全体で支援体制を広げています。半導体産業では工程ごとの国際分業が進み、すべての工程を1カ国で完結できる国は限られています 。 シンガポールやマレーシアが先行する中、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイは新規参入段階にあり、今後の発展余地は大きいといえます。
MUFG は、世界の主要な半導体関連企業とのネットワークを活かし、ベトナムの半導体バリューチェーン形成に寄り添いながら、補助金・許認可制度の整理や金融スキームの設計、人材面の橋渡しなど、実務的な支援を進めていく方針です。今後も産官学の横連携を実務的に支え、アジア全体の半導体産業発展に貢献していきたいと考えています。
4. MUFGの食と農業への取り組み
また、MUFG ベトナム拠点では、食と農業分野への支援にも注力しています。2025年 9 月に、 ベトナム農業環境省傘下のベトナム持続可能な農業パー ト ナーシ ッ プ (PSAV) とパー トナーバンクである VietinBank との3 者間で、農業分野への支援を目的とした覚書を締結しました。ベトナムでは、生産・加工技術の低さや未整備なインフラ・物流、不十分な衛生管理、ブランド力の欠如といった課題が山積しています。一方で、メコン川流域をはじめとしたベトナムの肥沃な台地は農業環境に適しており、国内消費市場の拡大に伴い外食産業も発展を遂げていることから、サプライチェーン全体において、非常に大きなポテンシャルを秘めています。
日本をはじめとした他国の技術やスタートアップの力を活用することで、これらの課題を解決し、ポテンシャルを引き出すことができれば、ベトナムの発展だけでなく、日本の食料自給率の改善や食料安全保障の強化にも貢献できると考えています。MUFGは日越企業のマッチングや産官学の連携強化により、このような支援の輪を広げていくことを目指しています。
5. メッセージと提言
総じて、2026 年のベトナム市場は、製造拠点としての優位性に加え、消費市場・デジタル経済・グリーン投資という新たな成長ドライバーを備えています。一方で、インフラ・人材・制度面の課題は依然として存在し、企業にはリスク認識と戦略的対応が求められます。MUFG は、こうした変化を機会に変えるため、多様なソリューションを提供し、企業の挑戦を支援していきます。
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