省人化・自動化の壁 投資のリターンを最大化する 3ステップの組織変革モデル【Vol.20別冊省人化-2025.9掲載】
LINK AND MOTIVATION VIETNAM CO., LTD
General Director
谷原 拓也
TAKUYA TANIHARA
省人化・自動化を拒む壁
設備やシステムへの投資によって、業務は効率化される。そう信じて、省人化・自動化に取り組む企業は少なくありません。しかし現実には、こうした投資の成果が十分に表れず、「トラブルが増えた」「現場が混乱している」「カイゼンが思うように進まない」という声が上がるケースが多くあります。
「人を機械の番人にしない」というのは、トヨタ生産方式の産みの親、大野耐一氏の考え方です。機械が主役と思われがちな省人化・自動化において、実は、「人」こそが機械の主導権を握る」という本質を言い抜いた言葉です。
省人化・自動化は、単に業務を効率化するものではありません。現場の役割が変わり、日々の仕事の意味も変わり、改善に向けた創造性にあふれる現場をつくる絶好の機会になります。にもかかわらず、「自分の仕事が奪われるのでは」と不安になり、モチベーションが下がる社員も出てきます。結果、機械やシステムを導入しても、それを活かしきれず、むしろ非効率さえ生まれることすらあります。つまり、「人の変革」が伴わなければ、省人化・自動化は空回りしてしまうリスクがあるのです。では、どうすれば「人」を変革できるのでしょうか。その鍵を握るのが「組織力」です。
「人」を活かすための組織変革の3ステップ
人の変革を成功させるには、感情や行動に変化を促す“ステップ”があります。その代表的な理論が、心理学者クルト・レヴィンの提唱する3ステップです。「Unfreeze(解凍)→ Change(変化)→ Refreeze(再凍結)」というステップで構成されます。「氷」にたとえて考えてみると、意識変革とは「四角い氷を丸い氷に変える」ようなものです。アイスピックを使って氷を丸く削ろうとしても、割れてしまいます。割れることを防ぐためには、一度「氷を溶かす」のがポイントです。氷を溶かして水にして、それを丸い型に入れ、再び凍らせるのが正しいステップなのです。
「人」の変革を促すためには、「組織」の力を活用することが重要ですが、この理論は、組織変革の実務においても高い有効性を示しています。リンクアンドモチベーションベトナムでも、多くの製造業向けの支援の現場でこのプロセスに沿った変革を行ってきました。
ステップ 1|Unfreeze:変化への納得をつくる
最初になのは、「なぜ、いま、変わらなければならないのか」についての納得感です。ここで重要なのは、単に変化を押しつけるのではなく、ポジティブな感情で受け止められる状態をつくることです。「現状」への問題意識と、省人化・自動化を通じて目指す「ありたい姿」への納得感がないと、自発的な行動は生まれません。だからこそ、まずは組織として目指す方向性を明確にし、それが従業員にとってどういう意味を持つのかを丁寧に語ることが必要です。
さらに、その変化が個々人のキャリアにつながる未来像であることを具体的に描くことも重要です。弊社がベトナムで実施した1万人調査でも、働くうえで「キャリアの展望」は大きなモチベーション要因となっています。「ここで働き続けることで、自分にどんな未来が待っているのか」。この問いに対し、前向きな答えが用意されて初めて、人は変化に向けて動き出します。
ステップ 2|Change:現状と理想のGAPを見える化する
変化に向けた納得感が醸成されたら、次は「理想」と「現状」のGAPを可視化する段階です。ここでのポイントは、単に従業員の不足を指摘するのではなく、従業員側が「何に期待しているか/期待していないか」に目を向けることです。特に、「期待していないこと」、つまり、組織内で関心が集まりにくい領域は、見過ごされがちです。しかし実際には、そこに最も根深いボトルネックが潜んでいることも少なくありません。
先ほどの弊社のベトナムにおける調査でも、ベトナム人にとって「マニュアル化」や「ノウハウ共有」に関する期待が極めて低いことが明らかになっています。言い換えると、多くの従業員が「カイゼンの重要性を感じていない」状態であり、この状態のまま省人化・自動化に注力しても施策が空滑りする可能性が高い状況です。まずは意識として、組織としての改善活動の重要性に注目=期待を集め、組織のありたい姿や、個人のキャリアとつなげて意味づけを行うことで、初めて「カイゼンを実践する価値」が感じられるようになります。そのうえで、改善に向けたアクションが「自分ごと」として動き出していくのです。
ステップ 3|Refreeze:変化を定着させる
変化が始まった組織には、「臨界点」と呼ばれる転換期が訪れます。これは、新しい行動や価値観が一定割合(およそ1/3)以上の人に浸透すると、加速度的に全体へ広がっていく状態を指します。この段階では、先に動き出した人たちが持つ影響力を活かして、周囲の巻き込みを進めていくことが重要です。そして臨界点を越えた後、次に求められるのは「仕組み化」=変化の定着です。制度や表彰、業務プロセスへの組み込み、成功事例の共有などを通じて、変化を“文化”として根づかせていきます。「人」を変えることを、一過性のムーブメントで終わらせず、日常の中に落とし込み定着させるためには、このように「組織」の力をうまく活用することがポイントとなります。以上が、組織力を土台とした変革のステップです。
クラフトの国、ベトナムで実現する省人化・自動化
経営学者ミンツバーグは、経営に必要な要素として、「アート」、「サイエンス」、「クラフト」の3つを挙げました。アートは直感力、サイエンスは論理力、クラフトは造形力とも言い換えることができるでしょう。ベトナムは、伝統的にクラフトに強い国です。バッチャンの陶磁器をはじめとする地域の特産品にもその伝統が受け継がれています。産業界においても、現場職能での製造工程を支えてきたのが「クラフト」の力です。それでは、省人化・機械化の時代には、すべてサイエンスに置き換わるのかというと、決してそうではありません。「アート」で描いた未来像に対して、「サイエンス」は論理でGAPを示してくれます。そのGAPを埋めていくのは、まさにこれまでベトナムが培ってきた「クラフト」の力です。ひとりひとりのクラフトのこだわりの力を、組織のナレッジとして昇華させ、製造工程に埋め込むこと。そして、改善のサイクルをボトムアップで組織として回し続けること。省人化・自動化の本質は、機械の導入による生産性の向上ではなく、「人」が主導権を握り、「組織」として改善を継続し、仕組みに落とし込むことです。これが、省人化・自動化の成果を最大化する鍵となります。
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