人手不足を乗り越える「現場力」—— 日系製造業が挑むべきリーンオペレーション改革【Vol.20別冊省人化-2025.9掲載】

株式会社スタディスト
取締役 副社長 リーンソリューション事業部長
庄司 啓太郎

第1章 ベトナム製造業で進む人材流出の実態

ベトナムではここ数年、製造業の競争が激化しています。特に台湾系・中国系の製造企業は、給与や待遇の大幅な引き上げを進め、優秀な技能人材を積極的に囲い込む動きが目立ちます。これにより、従来から高い信頼を得ていた日系企業であっても、若手や熟練工が他社に流出するケースが増加し、現場では深刻な人手不足が常態化しています。

一方、日系企業の多くは品質へのこだわりや、現場主導の改善文化といった強みを持ちながらも、人材の定着や育成において課題を抱えがちです。ベテランのスキルに依存する構造、業務の属人化、あいまいなマニュアル、口頭指示中心の運用…。こうした構造的な問題が、人材不足の時代においては致命的な非効率を生む要因となります。

では、限られた人材でいかに安定した生産性を維持し、さらに企業としての成長を実現するには、何をすべきなのでしょうか。その答えの一つが、「リーンオペレーション」による経営改革です。

第2章 「可視化」が改善のスタートライン

リーンオペレーションとは、「ムダがなく均整の取れた業務運営」を指し、従来のトヨタ生産方式に通じる改善アプローチを広く一般化した概念です。その導入プロセスで最初に行うべきは「可視化」です。

たとえば、ベトナム現地工場でよく見られる課題として、「誰が、いつ、何を、どうやってやっているか」が明文化されていないという点があります。担当者によって仕事のやり方が異なり、品質のばらつきや作業ミスの原因になります。さらに、新人教育も属人的で、育成に時間がかかり離職リスクも高まります。
これらの課題を解決するためには、まず業務の棚卸しを行い、すべての工程をリストアップします。その上で、作業にかかる時間(工数)、必要なスキル、使用する道具、ルールの有無などを明確にし、現場全体の可視化を進めます。このプロセスを通じて、非効率の原因を「感覚」ではなく「データ」で把握することができるようになります。

第3章 標準化・単純化・徹底化で「人に依存しない現場」へ

可視化された業務をもとに、次は「標準化」に着手します。これは、誰が作業しても一定の品質・スピードで業務をこなせるよう、手順・ルールを明文化する取り組みです。動画マニュアルやチェックリスト、掲示物などを活用することで、教育コストを抑えつつ、品質の安定を図ることができます。

標準化の次は「単純化」。複雑で分かりづらい作業は、手戻りやミスの温床です。重複した確認作業、意味のない手書き帳票、過剰な包装作業など、現場にはまだ多くのムダがあります。4つの視点——作業の有無、順序、頻度、手段——から業務を見直すことで、手間と負担の少ないスマートな業務へと再設計していきます。

そして最後は「徹底化」。せっかく標準化・単純化しても、守られなければ意味がありません。徹底化のためには、管理者による現場チェック、日報でのフィードバック、改善提案制度などを活用し、ルールを現場文化として定着させる工夫が求められます。現地スタッフに理解され、実行され、改善されることで、リーンな現場運営が実現します。

第4章 「余力」を生かす再投資=価値向上

省人化や効率化の先にあるのが「価値向上」のステップです。標準化や単純化によって削減された時間や人員の余力を、どこに再投資するかが企業成長の分岐点となります。たとえば、品質検査に追加工数を充てて不良品率を下げる、若手社員の教育研修に時間を割く、あるいは現地マーケット向けの製品改良に取り組む。こうした価値ある活動に余力を充てることで、「効率化だけの現場」から「創造性ある現場」へと進化していきます。

さらに、このサイクルが定着すると、現場から自発的な改善提案が出るようになり、PDCAの回転速度が上がります。結果として、人材の定着率も高まり、安定したオペレーションと継続的な価値創出が可能となるのです。

第5章 ベトナム拠点を変革のモデルケースに

リーンオペレーションは、一時的な効率改善ではなく、企業体質の改善を目指すものです。そして今、人口減少に直面する日本本社に先駆け、ベトナムなどの海外拠点こそがこの体質改善のモデルケースとなるべきタイミングにあります。

ベトナムは若い労働人口を抱えつつも、賃金上昇が今後も続くと予測されています。その中で、他社に先駆けて省人化と現場力の底上げに成功した企業は、人的・経済的コストの最適化を図りながら、より強い競争優位を築くことができるでしょう。

現場の「見える化」から始まり、「標準化」「単純化」「徹底化」へとつなぎ、「余力」を「価値向上」へ再投資する。この5ステップを繰り返しながら、現地での事業基盤を強化すること。それこそが、日系製造業が今後もアジアで選ばれ続けるための鍵となります。

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ベトナムビジネス・工業団地ガイド 「インベストアジア」

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