コスト競争力が揺らぐベトナムで、日系製造業はどう変わるべきか 〜“安さ”から“高効率”へ、転換期における戦略思考〜【Vol.20-2025.9掲載】
ABeam Consulting (Vietnam) Company Limited
Managing Director Executive Officer
小田 良平 / RYOHEI ODA
1.背景:揺らぐコスト優位、転換期を迎えるベトナム
かつて“世界の工場”と称されたベトナムは、長らく安価な労働力を強みに成長してきました。しかし、米中対立によるサプライチェーン再編や外資の進出拡大を背景に、ベトナム国内の人材獲得競争は激化し、最低賃金もこの10年で2倍近く上昇。企業にとって、単純な「低コスト拠点」としての魅力は薄れつつあります。 こうしたなか、政府は経済の高度化を目指し、半導体やAI、グリーン産業といった高付加価値産業への支援を強化しています。かつて重視されていた繊維や履物などの労働集約型産業への注目度は相対的に低下し、政策の転換局面にあることは見逃せません。
さらに米国では、ベトナムからの輸入製品に対しても最大46%の関税を課す方針が示されました。ただし、中国製品に比べれば関税水準は依然低く、中国企業によるベトナム進出は引き続き活発です。ベトナムは依然として「チャイナ・プラスワン」の中核候補地に位置づけられています。
2. 非日系と日系で異なる「人件費・コスト」への姿勢
韓国系・中国系企業と日系企業とでは、人件費に対する考え方に明確な違いが見られます。韓国・中国系企業は、労働市場や物価上昇の動きに応じて柔軟に賃金を引き上げ、成果主義に基づく処遇制度を導入。賃上げを「人材投資」と捉える傾向が強く、現地人材からの人気も高まっています。
一方、日系企業では年功的な賃金体系や同業横並びの水準が依然多く、市場との乖離が生まれがちです。その背景には、慎重な投資姿勢や本社主導の意思決定、長期雇用を前提とした人事制度が影響しています。結果として、賃金だけでなく、職場としての柔軟性や成長機会といった面でも競争力が問われているのが現状です。
3. これからの日系製造業に求められる3つの視点
① 「賃金上昇を前提とした省人化と生産性向上」
賃金上昇そのものは避けられない現実です。むしろ適正な賃金を受け入れたうえで、人員規模を最適化し、一人当たりの生産性を高める発想が重要になります。 その手段として、業務自動化(RPA)、IoTやAIを活用した生産工程の可視化、スマートファクトリーの導入など、テクノロジーによる省人化と効率化が効果的です。実際、ある日系製造業は、自社工場の自動化を段階的に進め、生産性の底上げを図っています。
②「経営層が戦略に頭を使う時間の確保」
日系企業の駐在経営者は、日々の承認業務や本社への報告対応に忙殺されがちです。しかし変化の激しい今こそ、経営トップ自らが中期的な戦略立案に時間を投じることが必要です。 そのためには、定型的な業務はRPAや業務設計を通じて自動化・省力化し、「考えるべきことに集中できる環境」を整えるべきです。経営者が5年先・10年先の市場を見据えて意思決定を行うことが、現場を動かし、会社の進化を導きます。
③「中長期を見据えた大胆な投資判断」
多くの日系企業では、ベトナム市場が本社にとって相対的に“小規模”とみなされ、大型投資の決断が後回しにされがちです。しかし台湾や韓国の企業では、将来を見据えた初期段階での大胆な投資が実行されており、実際に成果を上げています。 たとえば台湾のある電子機器メーカーでは、現在約3,000人の社員体制を今後5年で15,000人に拡大する構想のもと、人材・組織・IT戦略をセットで再設計しており、スケールのある成長に向けて布石を打っています。日系企業も、“現状からの改善”ではなく、“未来から逆算した意思決定”が問われています。
【COLUMN】生産性革命の先にあるベトナム製造業の姿
ある台湾の半導体企業は、早くからベトナムの工場自動化を進めてきた先駆的企業の一つです。自社製のロボットを年間1万台ペースで投入し、既に工程の大部分が省人化されています。このように、人数を増やすのではなく、限られた人員で最大の成果を上げるモデルは、コスト競争力を超えた持続的な強みとなりつつあります。 日系企業にとっても、「安く作る」から「高効率で作る」への転換が、いままさに求められています。
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RYOHEI ODA PROFILE
2007年にベリングポイントジャパン(現PwC コンサルティング)でキャリアをスタートし、2012年にアビームコンサルティングに入社。2017年より同社のベトナム事業立ち上げに携わり、2018年に現地法人を設立。2021年からは同法人のマネージングディレクターを務める。ベトナムにおける日系企業やアジアの多国籍企業を中心に、経営・IT/DX コンサルティングに従事している。主な支援分野/PMI、BPR(業務自動化)、SAPシステム導入 PMなど
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