MA特集コラム – なぜ日系は狙われる?ベトナムM&Aにおける二重帳簿と税務調査の真実【Vol.21-2026.3掲載】

Manabox Vietnam Co., Ltd.
公認会計士
菅野 智洋

ベトナム M&Aで見落としがちな「二重帳簿」のリスク

ベトナム M&Aにおいて、財務DDで最も注意すべきリスクが「二重帳簿」です。税務申告用と実態の帳簿が異なるケースが多く、買収後に税務追徴が発生する可能性があります。

ベトナムでは、特にローカル企業において、税務負担を軽減するため、税務申告用と実態の帳簿を別管理する企業が少なくありません。二重帳簿が起きる理由は主に2つあります。1つ目は「税金を減らしたい」という動機です。法人税や VAT を減らすため、売上を減らしたり費用を水増ししたりします。また、個人所得税を減らすため、給与を過少申告するケースもあります。2つ目は「利害関係者といい関係でいたい」という動機です。取引先や政府関係者へのコミッションやキックバックを支払うが、記帳しないケースです。

どういった手口で二重帳簿が起きるか

二重帳簿が作成される主な手口は以下の通りです。法人税を減らすためには、売上を認識しない、売上金額を調整する、タイミングをずらす(カットオフ) などの方法で売上を減らします。また、インボイスを不正に購入して費用を水増しする、仕入金額を調整する、架空人員に給与を支払ったことにする、在庫を調整するなどの方法で費用を増やします。個人所得税を減らすためには、給与を過少申告します。利害関係者といい関係でいたいためには、取引先や政府関係者へのコミッションやキックバックを現金で支払うが、記帳しないケースです。これらの手口により、実際の現金と帳簿上の現金が異なり、裏金が発生します。

日系企業が税務当局から狙われやすい理由

ベトナムで事業を展開する外資系企業は、税務当局からの調査対象となりやすく、多額の追加課税を言い渡されるリスクが相対的に高い傾向にあります。

日系企業(外資)が税務当局から狙われやすい理由は、いくつかの構造的要因が重なるためです。まず、税収確保の優先度が高いことが挙げられます。インフラ投資や社会保障の財源として税収は最重要であり、税務当局は「税収目標」「税源拡大」「徴税漏れ防止」を明確に掲げているため、現場に“成果を出す圧力”がかかりやすい構造です。加えて、外資系企業は税務上の論点が多いという特徴があります。移転価格取引や親子会社間取引、本社との契約など、説明が不十分だと否認されやすい領域が多く、結果として追徴につながりやすいため、税務当局としても調査対象に選びやすいのです。

さらに、外資に対して「ちゃんと見ている」ことは、公平性の政治的メッセージとしても機能します。実務面では、契約書・請求書といった形式だけでなく「実態」と「ロジック」まで求められます。実態とは取引が本当に起きたか、成果物は何か、誰がいつ何をしたか等で、ロジックとは必要性、金額根拠、配賦合理性などです。これらが弱いと深掘りされやすいです。

さらに、外資は域外適用の贈賄規制により不適切手段を使えず正規ルートで進めるため摩擦が表に出やすい一方、ローカル企業は慣習・言語・人脈で摩擦を減らし得るため、外資の方が厳しく感じやすいのです。

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