トヨタ式改善のプロが現場を変革! 自律的改善が続く仕組みづくり【Vol.20別冊省人化-2025.9掲載】

株式会社 OJTソリューションズ
濵﨑 浩一郎
HAMASAKI KOICHIRO

現場主導の「可視化」から始まる、自律的改善の第一歩

生産性向上と聞くと、多くの企業が真っ先に「自動化」や「機械導入」に目を向けます。しかしその前に、まず現場にいる「人」の力を最大限に引き出す取り組みが重要です。これは人のスキル自体を上げるために教育を強化しろ、ということではなく、最初にやるべきことは、現場の可視化です。大げさに言うと、工程がはっきりしておらず、人がとにかくあちこち動き回っている、そんな印象を受ける工場もあります。

可視化プロセスとは、ひらたく言えば現場の5W1Hを明確にすることです。だれが、どの工程で、いつ、何を、どんな目的で、どんな方法で作業しているかを視えるようにすることです。これが視えるようになると、ボトルネックになっている工程、人による作業速度の差、などさまざまなムダが視えてきます。改善活動の初期は上司や指導者が「視えたムダを指摘をする」というやりかたでもいいでしょう。しかし自律的・継続的な改善を実現するためには、現場にいるメンバーが主役となる必要があります。「どうしたら自分たちの仕事が楽になるのか?」を彼らに問いかけ、メンバー自身に自分の仕事の中のムダを見つけてもらいます。当然、そのような問いかけにすぐに前向きになるメンバーばかりではありません。むしろ今のやり方を変えるのに抵抗がある方が多いでしょう。あえてそういった後ろ向きな態度を取る方を巻き込んでいくのも方法の1つですが、まずは柔軟なメンバーに主体的に動いてもらうほうが進めやすいでしょう。実際に改善活動を進め、少し作業が楽になった実感が出来てくると、過去のやり方を変えたくないと頑なだった方も、「ひょっとして良いのでは?」と動き始めてくれることもあります。

改善活動の要は管理監督者です。弊社のお客様の場合は、私とお客様の管理監督者が伴走しながら進めます。進め方に唯一の正解はありません。直接現場の職場や雰囲気、人間関係などを観察することからはじめて、各現場に合わせて進め方を決めていきます。数字だけでは人は絶対に動きません。現場の数値を可視化する際に、同時に人もよく観察する必要があります。

解雇ゼロで実現!トヨタ式改善が導いたベトナム工場の省人化成功事例

トヨタカイゼン、いわゆるTPS(Toyota Production System / トヨタ生産方式)は、単なる工程効率化に留まらず、「人間性の尊重」と「継続的な改善文化の定着」に本質があります。
6年前、ベトナムの某食品工場から「生産性向上」「省人化」のご要望を受け、ひとつのプロジェクトがスタートしました。結論から言うと、52人で実施していた作業を36人で実施可能な状態を実現し、かつ生産性を向上することに成功しました。ただ、「誰ひとり解雇しないこと」が弊社と経営者のお約束でした。

国内外問わず、私が改善活動の際に大事にしていることは必ず自分からコミュニケーションをとることです。原料工場に訪問した際に、思い出深い出来事がありました。私はベトナム語がほとんどわかりません。せめて挨拶は現地のメンバーにわかる言葉でしょう、と決め、「シンチャオ」とあいさつしながら現場を回っていました。
ある時、一人の女性メンバーの方が私の元にやってきてベトナム語で何か話しています。通訳の方に内容を聞くと、彼女は「私も日本語であいさつがしたい。シンチャオは日本語でどう言えばいいの?日本人で私たちに挨拶をしてくれる人は初めてだ。」こんなようなことを言っていたようです。たかが挨拶、と思われるかもしれませんが、そういった小さなコミュニケーションを続けていくと、だんだんと彼らからも話しかけてくれるようになりました。当時は視察に来た日本人が、挨拶を返すということもあまりなかったようです。それだけで、彼らとの距離も少しずつ縮まっていったのです。

改善活動がはじまり、まずは1週間現場に張り付いて、その全ての工程をビデオ撮りしました。先ほどもお話しした「可視化」です。撮影したビデオ映像から工数がどうなっているのか、だれがどんな作業をしているのかじっくりと観察。ビデオだけではわからないことは現場のメンバーに話を聞きながら、どこにどれだけのムダがあるかを把握し、改善活動を進めていきました。

このプロジェクトでは、TPSのど真ん中である「ジャストインタイム」と「自働化」の考え方をうまく導入することができました。ジャストインタイムとは、工程の流れを整え、最小限の在庫でムダなく早くモノをつくること。自働化とは、不良を出したくても出せないようなしくみをつくることです。ただ、こういったトヨタの考え方さえあればうまくいくほど改善は簡単ではありません。また、私がいる間だけうまくいっても意味がありません。あくまで目指すのは改善文化の定着です。改善活動が継続されるためには、現場のメンバーが「自分たちの改善で結果が出た」という成功体験を得ることが不可欠です。教えるのではなく、寄り添い、共に考える姿勢こそが、トヨタ式改善をグローバルに成功させる鍵なのです。
このプロジェクトでは、結果的に、誰一人解雇しませんでした。また、生産効率を上げたことで、新規採用の必要がなくなりました。さらに、自然減によって、半年で適正な人数となりました。
プロジェクトから6年、同社のホームページには、当時トレーニングをしたベトナム人スタッフが、自律的に改善活動を繰り返している様子が掲載されています。現場で働くメンバーが主役になり、自律的に改善活動を続けている、そんな理想的な形を作ることに成功したのです。

す。現地スタッフに理解され、実行され、改善されることで、リーンな現場運営が実現します。

「人を増やす」ではなく「今いる人を活かす」スキルの可視化と成長戦略

人材不足が深刻化する中、製造業の責任者に求められるのは、「人をどう増やすか」ではなく、「今いる人の力をいかに最大限に活かすか」という視点です。工程の可視化だけでなく、その工程に従事するメンバーのスキルの可視化も重要となります。
「ワーカー」という言葉でくくられ、それぞれの工程に従事するメンバーのスキルが可視化されておらず、その工程で必要なスキルを保持しているのか分からなければ、人の力を最大限に活かすことはできません。スキルマップを用いた能力の可視化、教育プランの整備、そして継続的な改善活動によって、少人数でも安定した生産体制を築くことができます。
ムダを省くというのは、とにかく人を減らすということではなく、ムダな工程を省きつつ、人の能力を最大限に発揮させていくということを合わせて考える必要があります。

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