ベトナムコンプライアンス成功戦略の構築 ~日越間のギャップを超えて、真のグローバル企業を目指すために~【Vol.19-2025.3掲載】
弁護士法人 ベトホ
BETOHO LAWFIRM
代表弁護士
ブイ ホン ズオン
BUI HONG DUONG
1. ベトナム子会社でのコンプライアンス 違反行為の例
ベトナムに進出する日系企業をはじめ、外資企業において、コンプライアンス関係の課題が多く見られます。特に、不正行為として頻発するのが「政府機関への賄賂」や「民間同士のキックバック」です。これらの問題は、新規進出企業や中小企業では規模が小さい場合が多いものの、進出 5 年目以降の長期進出企業や大手企業では、組織的な不祥事に発展するリスクが高まります。
2. コンプライアンス違反による、労働者、会社への悪影響
ベトナムにおける外資企業での汚職刑事事件をご紹介します。ベトナムに進出した大手製造メーカが、食事サービスを提供する企業と契約を結びました。当該の食事提供の契約に基づき、調達された食材は厳格な基準に従い検査された後、工場の食堂に受け入れるプロセスになっています。しかし、契約開始から2 年あまりの間、特定の社員が食品検査や監査を担当する立場を利用し、供給業者 30社あまりから多額の賄賂を受け取りました。その結果、犯罪をした個人に対しては、ベトナム刑法第354条「収賄罪」および第364条「贈賄罪」に該当すると判断され、懲役の判決を下されました。
また、会社にとっては、どのような悪影響があるのでしょうか。筆者は、ある日本企業のベトナム工場での不正調査業務対応したことがあります。その際、社員が食堂の食事に不満を抱き、労働意欲を低下させていることが伺える、労働者同士のグループチャットを目にしました。深夜シートの従業員に「賞味期限が 1 ~ 2 日の牛乳」や「冷たい夜勤用の食事」が提供されること、承認されたメニューと違った別の料理を提供すること等の不満が書かれておりました。ベトナムには 「口を減らして客をもてなす」という諺があります。つまり、感謝の心を込めた食事のもてなしは、双方に信頼を生むものです。些細に思える食事の不満こそが、従業員の違法行為を誘発しかねない動機なるし、会社への貢献の気持ちがなくなり、業務の効率も落ちてしまう可能性があるのです。
3. コンプライアンスの問題が発生する原因
ベトナムの日系企業で不祥事が発生する背景には、図面の 3 つの要素が密接に関係しています。
4. コンプライアンス問題への対策
■正確に理解すべきこと
ベトナムでの行政手続きやライセンス申請などの場面で、担当者からの妨害や賄賂の要求に困るケースは少なくありません。しかし、管轄機関の組織構造や役割分担、手続きプロセス、最終的な権限者についての知識があれば、こうした問題に振り回されることは避けられる可能性があります。一般的に、行政手続き関係での賄賂を要求するのは実質的な権限を持たない者であり、最終的な権限者が賄賂を要求するケースはほとんどありません。権限を有する者は、自らの地位を危うくする行為を避けるため、基本的に賄賂には手を出さないからです。
そのため、管轄機関の構造や権限の所在を理解し、うまく賄賂を拒否しながら適切に問題を解決するための知識を持つことが重要です。多くのコンプライアンス問題は、実際には知識不足や制度の理解不足から生じている場合が多いのです。このような知識と理解を補完することが、コンプライアンス問題を克服し、健全な業務運営を行うための鍵となります。
■ 監査役の設置
ベトナム子会社において、コンプライアンス(法令遵守)とガバナンス(企業統治)の違いが十分に理解されていないことが、現地法人の運営に大きな影響を与えています。本来、ガバナンスの枠組みの中で、社長や日本人管理者が業務を統括すれば、コンプライアンス上も充分であるはずですが、親会社からは、コンプライアンスに関する細かな対応や監査業務も求められるケースが多くあります。このような状況では、コンプライアンスの細部に対応することに追われ、本来のガバナンスの役割が曖昧になるだけでなく、親会社と現地法人の間に不必要な緊張感を生むリスクがあります。その結果、会社の経営者は、生産や事業発展に集中することができなく、
場合によって大胆な決断をすることができない可能性があります。
この問題を効果的に解決し、現地法人が独立した運営基盤を確立するために「監査役」の設置を推奨します。監査役の設置は、管理者(特に社長)の負担軽減だけでなく、企業全体のコンプライアンス環境
を改善する重要な役割を果たします。なお、外部専門家に外注することも有効な施策といえます。監査役を設置することにより、以下のメリットが期待されます。
(1)管理者の負担軽減:日常的なコンプライアンス監査業務を監査役が担うことで、管理者の負担が軽減され、重要な経営判断に集中できます。
(2)コンプライアンス監査の客観性向上:監査役は中立的な立場で監査を行うため、より公平かつ効果的な監査が可能となります。
(3) 専門的な指導と環境改善:監査役は、コンプライアンス問題に対する具体的な対策や指導を提供でき、企業全体のコンプライアンス環境を向上させます。
■現地と親会社の橋渡しとしてのコンプライアンス体制
(1)グループ全体のコンプライアンス方針と現地独自規則のバランスを図る
ベトナムに進出する日系企業において、日本の親会社が作成した内部規定をそのまま現地子会社に適用することで、従業員の不満や非効率性を引き起こすことが多く見受けられます。この問題を解決するためには、
❶現地独自の規則を設けること(グループ全体のコンプライアンス方針を基軸としつつ、ベトナムの法令や商習慣を踏まえた独自の規則を現地の言葉で作成)と
❷現地の状況に即した柔軟性( 親会社の基準を参考にしつつ、ベトナムの現実的な運営状況に即した規定内容を設けることで、従業員の実務負担を軽減し、規則への受容性を高める)の検討が必要です。
(2)ベトナム特有の商習慣とのバランスを検討
❶違法性を回避しつつ商習慣を考慮 : ベトナムの法律に違反しない範囲で、商習慣に基づく行動を許容するルールを策定すること
❷承認プロセスの簡略化 : 日本基準の複雑な事前申請手続きを簡略化し、現地で運用可能なスピード感ある承認プロセスを構築すること
(3)ベトナム従業員への理解促進と教育の強化
❶現地言語で分かりやすい文書作成 : 法律専門用語を排除し、具体的な例やケーススタディを交えたわかりやすい文書を作成。対象者のレベルに合わせた資料作りを重視
❷ベトナム人従業員の視点から考える実践的なアプローチ : 従業員が直面する可能性のある法的・倫理的リスクに焦点を当てることで、個々の意識改革を促進する。また、従業員がそれぞれのリスクを具体的に想像できるようにするため、実例を用いた教育プログラムを設計
❸継続的なモニタリングとフィードバック : 規則や体制の運用状況を定期的に確認し、現地従業員からのフィードバックを取り入れることで規則を柔軟に改善
まとめ
ベトナムは、非常に魅力的な投資先です。その魅力は、これまでの Invest Asia の各号で十分に伝えられていることでしょう。私自身、ベトナム人として自国を誇りに思っており、多くの投資家の皆さまがこの国の強みを感じ取り、ベトナムへの投資と貢献を通じて、この地の発展に寄与していただけることを心から願っています。
「未完成」の制度や文化の中には、企業が主体的に関与し、新たな価値を創出するチャンスが秘められています。このような視点を持つことで、ベトナムの投資環境をさらに活性化させ、持続可能な成長を実現する道が開けることでしょう。
No articles
ベトナム製造業トピック



