改正土地法について
森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業
ハノイオフィス共同代表 パートナー
岸 寛樹
1. 改正土地法成立・施行の背景
ベトナムでは、2023 年末から 2024 年にかけて、主要な不動産関連法令がすべて改正の対象となりました。具体的には、土地法を全面改正する改正土地法が 2024 年 1 月18 日に国会で可決されたのに加えて、住宅の所有・開発・管理等に関する一般法である住宅法と、不動産事業の業規制である不動産事業法についても、それぞれ 2023年11月27日と同月 28日、従来の法律を全面改正する法律が国会で可決されています。当初は、いずれの改正法も2025 年 1月1日からの施行が予定されていましたが、2024年6月29日には、国会にてこれらの改正法の施行日を 2024 年 8月 1日に前倒しする法案が可決され、その結果、これらの改正法は 2024年8月1日から施行されています。
さて、このような大掛かりな不動産関連法制の改正が行われた背景や目的は何だったのでしょうか。残念ながら、日本と異なり、ベトナムでは法改正に際して政府から改正目的などをまとめた資料が公表されないため、真の狙いなどは明らかではありません。しかし、改正法の内容を見ると、おぼろげながら政府の意図も見えてきます。
例えば、今回の改正土地法では
・土地使用料を市場価格に基づいて決定すること
・リース土地使用権において土地使用料の一括払いができる場合の限定
・土地収用や土地使用権付与の手続の整理・合理化
などが盛り込まれています。また、後程触れますが、改正土地法では、土地使用権の取得規制における外国投資家の出資比率規制が緩和されました。これらの改正は、旧土地法の下では、土地使用権が時折(限られた人によって)実勢価格と離れた価格で取得され、そのプロセスに合理性や公平性が欠けるところがあったため、そのような状況を是正することにより、外資系企業を含む様々な投資家に公平かつ経済的合理性のある土地利用事業の機会を付与できる制度に改めようという意図があったのではないかと推察されます。このような動きは、2024 年7月末に亡くなられた故・グエン・フー・チョン前書記長が強力に推し進めていた汚職撲滅に向けた一連の動きとも整合的です。
それでは、外国投資家、とりわけ工業団地で土地を利用する日系企業の実務への影響が特に大きいと思われる改正土地法上のポイントを、いくつかご紹介します。
2. 改正土地法上、外国投資家へのインパクトが特に大きいポイント
A 外資規制の対象となるベトナム法人の定義の変更
ベトナムの土地取引制度は社会主義国特有の独特な制度になっており、ベトナムでは、土地の所有権ではなく、国家から付与される「土地使用権」が、私人間の取引対象です。そして、外資系企業がベトナム内資企業やベトナム人から土地使用権を直接譲り受けることは原則としてできません(工業団地のサブリース、土地使用権の現物出資、プロジェクト譲渡など、いくつか類型的な例外はあります)。このような原則は改正土地法でも変わっていないのですが、旧土地法と改正土地法では、この土地法上の外資規制の対象となる外資系ベトナム法人の範囲が変更されました。
ベトナムでは、投資法上の用語などを背景に、1 株でも外国投資家(外国投資家とは、典型的には外国で設立された法人を意味します)が出資をしているベトナム法人のことを「外国投資企業」と呼ぶことがありますが、旧土地法の外資規制の対象はこの「外国投資企業」でした。しかし、改正土地法では、その対象が「外国投資経済組織」という概念に変更され、これは要するに投資法上の「みなし外国投資家」に等しい概念だと考えられています。そして、投資法上のみなし外国投資家とは、典型的には、外国投資家の出資比率が50%超の場合を指します。つまり、外国投資家が持株比率のマジョリティを握っているベトナム法人は引き続き改正土地法上の外資規制の対象であるものの、外国投資家の持ち株比率が 50%以下のベトナム法人については、ベトナム内資企業と同様の扱いとなることが前提の文言が採用されているのです。この違いは結構大きく、例えば、日本企業とベトナムのローカル企業が合弁を組んでいて、ベトナムのローカル企業の出資割合が 50%以上確保されている(つまり、日本企業がマイノリティの)場合には、土地法上の外資規制の適用を受けない可能性があります。もっとも、改正土地法が施行されてから現時点ではまだ日が浅く、このような外国投資家の出資比率がマイノリティに留まる外国投資企業の取扱については、土地法・不動産事業法・住宅法の法文上の整理が明確でない部分が残っていますので、今後の当局の解釈運用や実務の集積を見ながら、慎重な対応をしていくことが肝要です。

B 外国投資経済組織による工業団地におけるリース土地使用権の譲渡
ベトナムでは、工業団地における土地使用権の取得方法は、その他の場合と比べてやや複雑です。具体的には、まず、➀工業団地デベロッパーが国から土地使用権を取得して工業団地を開発し、その上で、➁テナントが工業団地デベロッパーからサブリースを受け、かつ当局から土地使用権証書(LURC)を取得することにより、サブリースを受けた工業団地テナントが土地使用権の取得を認められることになります。しかし、旧土地法上は、外国投資企業がこの土地サブリースの土地使用権を既存テナントから直接取得することが認められておらず、以下のようなやや煩雑なステップを踏まざるを得ませんでした。
(i) 既存テナントと工業団地デベロッパーによるサブリース解除
(ii) 工業団地デベロッパーによる新テナントへの新たな土地サブリース
(iii) 新テナントへの新たな土地使用権証書の発行
しかし、改正土地法下では、譲受人が外国投資企業や外国投資経済組織の場合でも、既存テナントから直接、サブリースによる土地使用権を譲り受けることを認める条文が盛り込まれました。これにより、工業団地テナントが保有している既存の土地使用権の外資系企業への譲渡について手続的な負担が大幅に軽減され、また、既存工業団地テナントが、市場価値をベースとした価格で外資系企業にサブリースによる土地使用権を譲渡する取引が行いやすくなるのではないかと期待されています。さらに、工業団地における土地使用権と建物のテナント間の直接譲渡に関しては、これまで人民委員会や工業団地デベロッパーによる対応上も制約があったものと認識していますが、このような改正土地法上の新たな条文も踏まえ、そのような運用についても併せて改善がなされることが望まれます。

C 投資プロジェクトの期間延長に伴う土地使用期間の延長
ベトナムで私人が取得することが認められている土地使用権は、原則として 50年(例外的に70年)の期限付きの権利です。そして、旧土地法では、土地使用権に設定された土地使用期間の延長を投資家が申請することができるのは、当初の土地使用期間満了の 1 年前から 6ヶ月前の間に限られ、それよりも前に土地使用期間の延長をすることが認められていませんでした。このような制約は、長期間の投資プロジェクトに投資する投資家にとっては、投資の妨げとなり得ます。例えば、せっかく投資プロジェクトの期間が投資登録証明書(IRC)上延長されても、取得している土地使用権証書との関係では、投資プロジェクトの期間延長のタイミングで自動的に土地使用権の有効期間が延長されるわけではないので、最悪、土地が途中から利用できなくなってしまうリスクが残るためです。
しかし、改正土地法では、投資家は、以下の要件を満たせば、期間満了の 1 年前を待たずにいつでも土地使用期間の調整を申請することができることとなりました。
(i) 調整が当該地域における土地利用計画に従っていること
(ii) 当該投資プロジェクトの土地使用期間の調整に係る書面の提出
(iii) 投資家が、法令に従い国に対する土地に関する財務上の責務を果たしていること
(iv) 土地が、改正土地法第 81 条に規定される土地収用の対象となっていないこと
(v) 投資プロジェクトの調整に関する所管当局からの書面承認(つまり、投資方針承認(IPA)や投資登録証明書(IRC)の変更)
(vi) 環境法令に規定される条件の充足
もっとも、改正土地法においても、土地使用権の最大土地使用期間50年(あるいは 70年)との関係がどうなるのかという問題は残されています。すなわち、例えば、元々付与された土地使用期間が30年だった場合に、その途中で土地使用期間の調整が行われたとして、調整後の土地使用期間が当初の土地使用期間の始期から合計で50 年までしか延長できないのか、それとも、土地使用期間は調整時点を新たな始期としてそこから最大50年(あるいは70年)延長できるのか、まだ今一つはっきりしません。もちろん、民間投資家としては後者の解釈でないと改正の意義が半減してしまうのですが、そもそも、ベトナムで最初に市場主義経済が導入され投資法が施行されたのが1987年ですので、そこからまだ50年経過しておらず前例となるケースが存在しないため、当局の解釈運用も不透明なのです。このような不明確な論点については、今後政府から何らかの形でより詳細な政令、通達、あるいは解釈指針などが示されることが期待されるところです。
3. まとめ
これらのほかにも、改正土地法では多くの重要な変更が盛り込まれています。ここで触れた点は改正内容のほんの一部にすぎませんが、ベトナムの工業団地で事業を行っている、又は行う予定のある日本企業に特に大きく影響を及ぼすと思われる点を重点的にお話しましたので、ぜひ注目して頂ければと思います。
No articles
ベトナム製造業トピック